助手席物語 #山陽自動車道02
道路の名前。確かに、名神とか東名と
か、ふたつの地名の頭文字をつないだ
パズルのような名前が多い。そういえ
ば芦屋と有馬をつなぐ芦有ドライブウ
ェイというものもある。芦有と書いて
「ろゆう」と読む、ちなみに。道路と
いうのはどこかとどこかをつないでい
るものなのだから、この名付けルール
は合理的かもしれない……なんてことを
一人で考えている間にミサキも眠って
しまっていた。僕も一息いれるために
次のサービスエリアに入ることにした。
僕は丁寧に減速し、できるだけ静かに
駐車した。
一人車を降りてコーヒーを買いに歩い
た。缶コーヒを一口飲んでから深呼吸
し、ようやく休日の実感が湧いてくる
のを全身で味わう。土産もの屋には桃
やぶどうといった果物や、きびだんご
が並んでいる。
僕はまたぼんやりと道路のことを考え
る。高速道路のサービスエリアなんて、
結局はただの通りすぎる地点だから意
味なんてない、と誰かが言っていた。
誰だったかな。村上春樹の小説の登場
人物が言いそうなセリフだ。確かこう
続く。「なんに意味があるかといえば、
私たちがどこから来て、どこに行こう
としているかってことでしょう。
ちがう?」そうかもしれない。そうだ、
僕は今うどんを食べるためにうどん県、
もとい香川県に向かっているのだ。
缶コーヒーを飲み干しばっちり目が覚
めたところで車に戻ると、ミカゲが目
を覚ましていた。
「ここどこ?」
彼女の面影にはまだ幼さが残る。
「吉備サービスエリアだよ」
僕はミサキを起こさないように囁くよ
うに言った。ミカゲは
「ふうん」と言って興味なさそうに返
事をした。寝起きの不機嫌な感じがあ
まりにも似ているから僕は閉口してし
まう。行こうか、と言ってクルマに乗
り込みエンジンをかけた。眠そうな二
人を乗せてこいつと僕とで走る。相棒
のようで頼もしい。
瀬戸大橋を渡り、香川県に入って一旦
高松方面へ向かう。目当てのうどん屋
は丸亀よりも南東の方にあるらしい。
外の空気を入れようと窓を少し開ける
と、隣の車線を緑色のロードスターが
走り抜けていった。珍しい、かなり古
いモデルだ。幌は開けている。風を切
るように走るのは気持ちがいいだろう、
それがドライブの醍醐味というものだ。
そこで僕はさっきの言葉を思い出し、
だけど、と考え直す。だけど、本当に、
どこから来てどこに行こうとしている
かだけが重要なんだろうか?今の僕は
たぶん、違うと答えるだろう。道中を
楽しむのでなければドライブなんてほ
とんど意味がなくなってしまう。車中
から見えるいろんなものを一緒に見て、
同じ音楽を聴いて、どうでもいい話を
して。眠ってしまった誰かのためにそ
っとボリュームを下げたり、うんと静
かにブレーキを踏んだりする…。
となりでミサキが大きく伸びをした。
もうすぐ着くよ、とだけ僕は言った。
また静かになった車内の後部座席から
ミカゲの寝言が聞こえてきた。強火が
どうとか、下味がどうとか言っている
ような…。寝ても覚めても料理のこと
を考えているらしい。僕とミサキは目
が合って音を立てずに笑った。カーナ
ビが目的地は右側だと知らせてくれた。(終)
#助手席物語 第3話
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