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助手席物語

助手席物語 #国道二号線

少し間をおいて彼は続けた。
 
「昔はロードスターに乗ってたんだよ
ね。大学生の頃にバイトして、親に借
金までして、中古で買ったんだけど。」
 
大学生でクルマを買うなんて、やっぱ
り昔からデキる男だったのだと僕は素
直に関心してしまった。僕なんて学生
の頃は自転車を買うかどうかで半年以
上悩んでいたこともあった。
 
 

「当時好きだった女の子を、大学の校
門のところまで迎えに行くのが夢だっ
たんだ。それだけのためにロードスタ
ーを買ったと言っても過言ではない。」
 
アカシさんの表情は恥ずかしそうな照
れ笑いに変わっていた。僕はこんなデ
キる先輩にも初々しい過去があったの
かと思うと嬉しくなった。
 
「彼女は法学部生だったんだけどね、
授業が終わると図書館に行って、借り
てきた本をいっぱい抱えて校門のとこ
ろまで歩いてくるんだ。彼女の姿が見
えると僕は後ろにまわってトランクを
開けてあげる。2シーターだから荷物
を乗せる場所がなくてね。」
 
僕は大学生のアカシさんを想像してみ
たけれど、あまりうまくいかなかった。
今のスーツ姿があまりにも似合いすぎ
ている。

 
 
仕事の引き継ぎ自体は大したことはな
かった。アカシさんはお客さんに僕の
ことを、優秀なヤツなんで大丈夫です
よ、と紹介した。冗談だとは思うけれ
ど。それがなんだか嬉しかった。優秀
だと言われたことがではなくて、冗談
を言ってくれたことが。
 

 
帰り道、アカシさんは「ちょっとコン
ビニに寄ってもいいか?」と聞いた。
手早くウィンカーを出すと、コンビニ
の駐車場に入って水色のSUVと白い軽
トラの間にバックで駐車した。
 
まるで自動運転の広告みたいに無駄の
ない見事なハンドルさばき。アカシさ
んらしい抜け目のなさ。それでも僕は、
無邪気な学生時代のエピソードや、家
族を乗せて山道を運転する姿を知って、
行きの車内で感じていたような遠さは
消えてしまったように感じた。
 
 
表面しか知らなかったものが、少し立
体的に見えたような気がしたのだ。ア
カシさんがトイレに行っている間、僕
は考えていた。
 
運転席と助手席に座ると、相手のこと
を身近に感じられるようになるのかも
しれない。密室だからだろうか。運命
共同体だから?
 
とにかく二人とも同じ方向を向いたま
ま話ができるのがいい。緊張してどこ
を見ていいのかわからないなんてこと
がない。バーのカウンター席に座るよ
うなものだ。(僕はミサキと初めて行
ったバーのことを少し思い出した。)
 
 
例えば喫煙所で何気なく話す仲になっ
たり、最近の若者には嫌われるという
飲みニケーションってやつがあったり
するけど。あるいはドライブというの
も一つの手だ。
 
僕にも、僕を遠い存在に思ってくれる
ような後輩ができたときのために覚え
ておこう。
 
戻ってきたアカシさんの手には缶コー
ヒーが二つ。はい、と手渡したその手
はやっぱりちょっと無骨な感じがした。(終)
 
 

#助手席物語 第5話
#国道二号線 #後編
#デミオ #ロードスター
#2シーター #中古車

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