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助手席物語

助手席物語 #北淡02

自分が運転免許を取ったときのことを
考えてた。すごく嬉しかった。だって
クルマが運転できるといろんな可能性
が広がる。(はなからペーパードライ
バーになろうと思って免許を取りに行
く人間なんているんだろうか?)初め
て運転した日のことも覚えている。ア
クセルを踏むとクルマが走り出して、
ハンドルを回すと曲がる(当たり前だ)。
自分が空でも飛んでいるみたいに、ち
ょっと信じられない気持ちだった。そ
のとき助手席には黒縁メガネの教官が
座っていたっけ。私のパニックとは真
反対にすごく平静で、助手席の下のブ
レーキペダルにしっかり足を乗せたま
ま淡々と運転を教えてくれた。初めて
運転する人間の慌てふためく挙動など
もう見飽きてしまったのだろう。あの
教官は今でもあの街で運転を教えてい
るのだろうか?

私はカサイ君と同じように前走車をま
っすぐ見つめながら、ぼんやりと思い
出していた。カサイ君は免許を取った
ときどんなことを考えていたんだろう?
免許を取ってから初めて隣に乗せて運
転したのは誰だろう?聞いてみたい気
もするけど、聞かないほうがいい気も
する。と、気がついたらもう目的地に
着いていた。駐車スペースに停車する
とエンジンを切って、短く伸びをする。
着いたよ。ありがと。うん。もう一度
大きく伸びをしてから外に出た。

養鶏場はこじんまりとしていて心地の
良い場所だった。鶏小屋に何羽かニワ
トリがいて、地元の子どもたちらしき
グループがたまごとり体験をしていた。
そこは直売所なので本格的な養鶏施設
は近くの別の場所にあるらしい。藁の
敷かれた小屋を覗き込むと、鶏小屋独
特の匂いが鼻を打った。短い鳴き声を
上げながら小屋の中を走り回る姿はた
くましくて頼もしい。
 

 
隣の直売所で卵かけご飯専用の卵と加
熱専用の卵を4つずつと、たまごプリ
ンを買って帰ることにした。クルマに
乗り込もうとしたときにはもう少し日
が傾いていた。光の加減でかすかに空
気が黄色く染まっていて、どこかから
白い煙がたなびいている。買った卵を
割れないように厳重に包んで後部座席
に置いてから、帰ろっか、とカサイ君
が言った。

高速道路に乗ってからはずっとどんな
卵料理にして食べるのか話し合った。
改めて考えてみるといろんな調理方向
があるものだ。卵とは実にさまざまな
可能性に開かれている。(修行の身の
ことを「卵」と表現することも頷ける。)
結局、二人ともだし巻き卵が一番好き
だという結論が出た。残りはそれぞれ
の好きなように、私は目玉焼きにして
カサイ君はポーチドエッグにして食べ
ると宣言した。こういうときにポーチ
ドエッグとか言い出すところがカサイ
君らしくて笑ってしまう。もうすっか
り夜になった。オレンジ色の街灯と赤
や緑に色を変える信号に照らし出され
た黒い道を軽快に駆け抜けていく。大
きな交差点で信号待ちをしているとき、
前の車の赤いブレーキランプに照らさ
れた横顔をこっそり見た。ようやく帰
ってきた安堵から少し表情が柔らかく
なったみたいだ。今度、運転教えてよ。
って言ったらなんて言うかな?あんな
に嫌がってたくせにって笑われるかも。
だってカサイ君が楽しそうに運転する
から。自分が運転したいから嫌だって
言うかな。それとも喜ぶかな。いいや、
また今度にしよう。(完)

#助手席物語 第4話
#北淡 #後編
#デミオ #ドライブ
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