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助手席物語

助手席物語 #ポーアイ

信号待ちをしているとすぐ横の歩道を
部活帰りらしき中学生たちが歩いてい
た。3人とも長い白ソックスにショー
トパンツ、3つ入りのボールを担ぐ子
もいる。地元の学校のバレー部の女の
子たちだろう。じゃれて笑いながら歩
いている姿に、私は思わず見入ってし
まう。彼女たちはフロントガラスの前
を、見られていることも知らずに通り
過ぎていく。

こう見えて私も中学生の3年間はバレ
ー漬けだった。強くも弱くもなかった
けど、ボールを追いかけるのが楽しく
て仕方がなかったのだ。カサイ君も黙
ったまま眩しそうに女の子たちを眺め
ている。

バレー少女たちが横断歩道を渡り切っ
て、車線の信号が青に変わったので昔
を懐かしむ余裕もなくなった。私はハ
ンドルを握り直すと、落ち着き払って
アクセルペダルをじわりと踏む。我ら
がデミオはスムーズに発進する。

そう、今日はなんと私が運転している。
驚いた?後続車なし、車はまばらで歩
行者もほとんどいない。大丈夫、安心
して。と、自分に言い聞かせる。ペー
パーとは言っても免許を取ってから何
度かは運転してるし、そんなに時間も
経っていないから忘れていることもほ
とんどない(はず)。それに球技が得
意な人は運転も上手だって聞いたこと
があるし。

空は薄曇り。梅雨入り前の少し肌寒い
空気だ。で、どうして私が運転してる
のかっていう話なんだけど。今日はカ
サイ君が本棚を買いたいというのでそ
れに付き合っていて、時間が余るから
映画でも観ようかって話になった。タ
イミングが合いそうなものの中から適
当に選んで、新作ではなくて過去の名
画を上演するプログラムを観た。それ
はすごく昔の白黒の映画だったけれど、
なかなかスリリングでおもしろかった。
この映画の主題歌がビールのCMに使わ
れてて有名なんだって。

エンドロールが終わって会場が明るく
なると、余韻に浸っている私の横で、
カサイ君はゆっくりと立ち上がって何
かを探しだした。着ている服を入念に
調べたり、座っていた座席の下に潜り
込んだり。私がスマホのライトを貸し
ながら、何を探しているのかと尋ねる
と、いや別に…とか言ってごまかそう
とする。しつこく問いただしてみると、
彼はゆっくりとこちらを見て、右目を
つぶったまま「コンタクト…」と囁いた。

笑っちゃうよね。コンタクトレンズを

落としたんだって。映画の終盤でまば
たきをした拍子に外れてしまったけれ
ど、暗闇の中で小さな透明のプラスチ
ック片を探すことなんてとてもじゃな
いけどムリな話だ。確かに一番いいと
ころでやたらゴソゴソしていたような
気もする。

とにかくそんなわけで私は運転席に座
ったのだった。行きはカサイ君が座っ
ていたから座席の位置が後ろ過ぎる。
ガチャンと前に戻して、ミラーの角度
を指差し確認する。教習所で教えても
らった通りに。ちなみにだけど、消え
てなくなったと思ったコンタクトは、
あとになってコーヒーの紙コップの中
から発見された。茶色く染まってコッ
プの底に貼り付いたコンタクトレンズ
を見て、思わず私たちは顔を見合わせ
て笑った。(続)

#助手席物語 第6話
#ポーアイ #前編
#デミオ #スムーズな発進
#ペーパードライヴァー

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